inorino310のブログ

好きを繋げていく

変わっていく世界で私はどうしたらいいのだろう

 

2019年6月21日、日本国内で暮らす外国人への日本語教育の充実を促す「日本語教育推進法」が参院本会議で可決、成立しました。

 

今、国外の日本語教育に携わっている私も、私の教師仲間たちも、この話題で持ちきりです。この話だけでオールナイトで飲み会ができてしまいます。ちょっと大げさですが、私たちのこれからの仕事が大きく変わるかもしれない、本当に大きな動きです。

 

 

 

 

 

 

私は日本語教育の世界に入って8年ですが、経験したことのない混沌とした状態に、少しドキドキしています。どうなるんだろう、日本語教育。どうなるんだろう、私の仕事。

 

 

 

 

 

まあ、たった8年なんですけど、留学生30万人計画が発表されたのが2008年で、私が大学に入った年ですし、学部1年の頃から地域日本語支援をしていたので、日本語教育を12年見ていることになります。

 

前回のポストでも書きましたが、その当時は本当にまだまだ日本語教育が受けられるのは大学機関や昔からある日本語学校がほとんどで、日本語教育関係の仕事を希望する人も仕事も、それほど多くなかったです。

今では「日本語教師の勉強」と聞けば世間の人も「あぁ、外国人のための」とすぐに反応してくれますが、私が大学に入るときには、している方もいますが、やっぱり国語の先生と混同する方が多く、説明は大変でした。

 

 

 

 

 

日本語を学ぶ人が急激に増えるということは、日本語の先生も急激に増えているということです。

 

 

 

 

 

4月に改正出入国管理法が成立し、特定技能という新しい在留資格が作られました。

4月末から特定技能試験が行われ、既に合格者も発表されていますよね。海外でも随時この試験が行われ、これから特定技能ビザで働く方が増えていくんでしょう。

 

 

 

この改正法に先立って、文化省では日本語教育人材の養成や研修の在り方についての審議が行われ、今年3月に報告が公開されました。

 

「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」について | 文化庁

から、その役割と段階を引用します。

 

【役 割】
(1) 日本語教師 : 日本語学習者に直接日本語を指導する者
(2) 日本語教育コーディネーター日本語教育プログラムの策定・教室運営・改善,日本語教師等に対する指導・助言を行うほか,))多様な機関との連携・協力を担う者
(3)日本語学習支援者日本語教師日本語教育コーディネーターと共に日本語学習者の日本語学習を支援し,促進する者


【段 階】 
養 成日本語教師を目指す者
初 任日本語教師の養成段階を修了した者で,それぞれの活動分野に新たに携わる者
中 堅日本語教師として初級から上級までの技能別指導を含む十分な経験を有する者

 

コーディネーターは地域日本語支援または、日本語教育機関の主任を指します。たとえば、日本語学校の主任になるためには、常勤3年以上、または研究者3年以上の経歴が必要になります。

 

 

この常勤3年以上の先生というのが、なかなか少ないうえに、3年働いたからと言って主任業務がすぐにできるようになるわけじゃないんですよね。

 

私は院に通っていた時期で既に常勤5年を過ぎていたので、院を出る時には色々な日本語学校から主任のお話を頂きました。いや、私なんぞにお願いするなんて…どんだけ人足りてないんだよ…と改めて人手不足を感じたこともありました。

 

私は常勤として3年働いたとしても、機関や他の先生をコーディネートできるほどのスキルは備わらないと思います。

 

 

一般企業では何年で一人前なんでしょうか。

教師の仕事は、1年間で1話完結だと思っています。1年の中で1回しか経験できないことが多すぎるのです。

 

それを3回やって主任…無理ゲーやん…(心の声)

 

やるしかないんだよという声が至る所から聞こえてきますが、や、だって、今年やっと新しい法律やら取り決めが発表された仕事だよ…?まだ国が仕事としてはっきり立場を決めていない仕事だよ…?

 

日本語教育の世界での主任は、言わば校長先生です。その学校の方針を決めていく人です。(経営者、責任者は別にいらっしゃいますが、教務主任が実質全ての業務の責任者だと言えると思います。違ったら教えてください。私の知っている学校は主任が教育に関するすべての責任を持っていらっしゃいます。)

 

 

 

それまで、世間にもあまり認知されず、もちろん学校の先生のように文科省が定めた指導要領もない、新しい分野の謎の職業だった私たちは、カリキュラム作りからぜーんぶ自己流でやってきたんです。いろいろな研究書を読んで、勉強会に参加して、0から作り上げています。

 

こうかな?ああかな?これでうまくいくかな?と暗中模索の教育企画を学生に押し付けられるほど、大きな責任をひょいと請け負うことは、私にはできません。

 

もちろんやりたいことはたくさんあります。アイディアもたくさんあります。でも、いざ主任になるって考えると、震えが止まらず、今までやってきたという自信も遠く消え去ってしまいます。

 

 

昔から主任をやっていらっしゃる先生方も多いです。

でも、私は前代未聞のスピードで増え続ける、たくさんの新しい先生や学生をコーディネートするなんて、恐怖でしかないです。

 

 

日本語の先生の仕事は雇用形態や給料が不安定で、この仕事を希望する若い人が少ないです。また、なったとしても、その不安定さから、数年で辞めて転職する人も多いです。雇用についても、給料についても、各機関が独自に定めています。

また、日本語教育に携わっている60%がボランティアの先生だと言われているほど、まだまだ生活に繋がる仕事ではありません。

 

私は海外で常勤として働いていたときも、国内で非常勤として働いていたときも、給料は大学時代のアルバイト代より安かったです。アルバイト時代の半分。いや、アルバイトどんだけやってるんだよって話は置いておいてください。たしかにめちゃくちゃ働いていたけど、ちゃんと扶養内でシフトを組んでいました。つまり、日本語教師として、社会人として働いて、それ以下です。

 

 

ボランティアに毛が生えたような仕事では、そりゃなりたい人も増えませんよね。

しかも、どこかの学校で教えるとなると、身分は教師です。それはもう激務で、みんな遊ぶ時間、ご飯を食べる時間、寝る時間を削って、仕事をしています。

 

 

 

私は1年目のころ、海外で、給料8万円で働いていましたが、平均睡眠時間は3時間でした。だって仕事が終わらないから。土曜日も日曜日も学校に行きました。学校の仕事も、授業の準備も、全部無休時間内にやりました。

 

 

みんながみんなそんな生活をしているわけではありませんし、私の効率が悪かったのもあると思います。でも、私の教師仲間たちに聞いても、同じ状態だと聞きます。

 

やっぱり、この仕事を選ぶ人が少ない、すぐに辞めてしまうのは、そういう生活をしている人が多いことも関係しているような気がします。これは体感の話なので、どちらでもいいですが。

 

 

 

 

 

話は逸れましたが、そんな仕事でも今、日本語教師を増やさなければ!と国はやる気満々です。

 

先生を増やすのは本当に本当に急務です。今までも忙しかったこの仕事、一人当たりの仕事量が限界を超え始めてきています。

 

1人の先生が担当する学生数が増えると、授業の質が落ちてしまいます。授業の質の確保には時間が必要です。でも、私達にはもうそんな時間がありません。新しい先生を増やさなければ、これからさらに増えていく日本語教育支援を必要としている人たちを支えることができません。

 

 

総則の基本理念では、国籍、年齢を問わず「希望する全てのもの」に日本語教育を受ける機会が確保されなければならないとし、その推進にあたっては、関係省庁が有機的に連携し、総合的に行われなければならないと明示した。

引用元:日本語教育は「国の責任で」 推進基本法案の原案を提示 日本語議連の総会で | にほんごぷらっと

 

教育の保障は国の責任であると、はっきり宣言されています。

 

移民計画が成功した諸外国では、語学教育は国が責任を持って行っています。日本はどうするのでしょうか。私たちの仕事はどうなるのでしょうか。

 

これからも、ボランティア同然の立場で、体に鞭打って働くのか、それとも国が国家資格として仕事を保証してくれるのか。

 

 

日本語教師にははっきりとした資格証明がありませんでした。一応今までも専門知識を学んだ人を採用するように決められていましたが、それでも国が定めるところの有資格者ではありません。

 

専門の課程を修了してさえいれば、だれでもなれる仕事です。

私はこの仕事を始めて、いい意味でも、悪い意味でも、色々な方に会いました。

過激な言い方にはなってしまいますが、「この人と自分が同じ職業の人間だとは思いたくない」という人もたくさんいました。

 

新人教師が増えれば、それを見守る先輩教師が必要だと思います。

新人教師同士の学び合いも大切ですが、先輩を見ることも必要です。

 

でも、周りを見渡しても、教師歴8年の私が「すごい!ベテラン!」と言われるほど、長く続けていらっしゃる方が少ないのです。

 

みんながむしゃらに頑張ってきました。しかし、学生も新人教師も増えている今、がむしゃらだけでは質は保てなくなっています。

 

ましてや、ほとんどを地域のボランティアの方に頼り切っているこの世界で、国はどんな保障ができるのでしょうか。

 

 

 

 

 

西口光一先生もおっしゃっていますが、日本語教育の観点からだけで解決する問題ではありません。


今の法案は1つ目の階段でしかないと思います。日本語教育のまねごとを増やさない、広げない。本当に必要な支援を考えるときです。

西口光一: 「つながる日本語」の提案

 

 

 

法を作った!役割を明確にした!だけでうまくいくはずがないことは明らかです。そんなの、日本語教育のことを知らなくたって、わかること。むしろ、私達以上に疑問に思い、学んでいくべきでしょうね。一緒に暮らすのは日本のみなさんなんだから。

 

法は変わった。ビザも増えた。求められる人材像も明らかにされた。

日本語教育の世界にどっぷり染まった生活を送り、また、教育研究の世界に足の小指だけ突っ込んだ私。

 

中堅と呼ばれるには、まだまだ勉強が足りません。

それでも、大きく変わろうとしている日本語教育の世界で、自分の立場を見つめなおしています。