発音ってむずかしい
最近、ベトナム語を勉強していて、発音が上手くできないために、心が折れそうです。
外国語を勉強するとき、発音でつまづく日本人も多いですよね。
私は今まで、英語、ドイツ語、中国語、トルコ語、韓国語、タイ語、ベトナム語を勉強したことがあります。勉強したことがあるだけで、話せません。
中国語、タイ語、ベトナム語は音の高さが母音と子音のような役割をしている声調言語です。
声調言語は、媽(mā; お母さん)、麻(má; 麻)、 馬(mǎ; 馬)、罵(mà; 罵る)のように、同じ「ma」という音でも、高さで意味が変わる言語のことを言います。
そのため、中国語は4声、ベトナム語は6声、タイ語は5声の習得が必要です。これがとってもむずかしい。
トルコ語はoとö、uとüの発音の違いを身に付けなければ、話せません。
日本語は拍(モーラ)で音をカウントするのに対して、英語は音節(シラブル)でカウントします。どういうことかというと、日本語の「ありがとう」には「あ」「り」「が」「と」「う」という5つの音があります。この「あ」が1拍です。英語の「Thank you」は「Thank」と「you」の2音節にしか分かれません。これが英語の発音の難しいところで、日本人がカタカナ英語になってしまうのは、どうしても拍(モーラ)で考えてしまうからでしょうね。
他にもいろいろな違いがありますが、私もめちゃくちゃ詳しいわけではないので、ここまでにします。
発音が上手になりたい人はIPA(International Phonetic Alphabet)を理解していると、勉強が進むと思います。
もっと専門的なことに興味がある方は本を読んでください(笑)私は音声学についてはこの本で基礎を学びました。
日本語は発音はどうなんでしょうね。
日本語は発音は他の外国語に比べて単純で簡単だからいいよねと言う日本人によく会います。
いや、まああなたは日本人だから難しくないでしょ…と思いながら、日本語の発音は簡単なんだろうか?と考えることがあります。
たしかに、中国語みたいに音で意味は変わらないし、あいうえおに沿って話していれば通じることばですよね。
あれ、やっぱり日本語の発音は簡単なのかな?
でも…ほら…外国人っぽい発音がありますよね。あれ、上手に聞こえないですよね。
しかも、時々何語話してるの…?あ、日本語だったの???みたいな発音をする方もいるんですよね。
なんで簡単なのにできないんでしょうね?
実は日本語にも発音の規則がちゃんとあって、みんな自分の国の発音方法に引っ張られて、その日本語の発音ができないでいます。
わたしたち日本人はあまり意識していないけど。
実は日本語も音の高低があります。
広義で言えば、日本語も中国語やタイ語のように声調言語と言われるようです。
ただ、日本語でアクセントによって意味が変わるのは名詞だけで、形容詞や動詞は音を間違えても意味は変わりません。
わかりやすい話で言うと、関東と関西で、「雨」と「飴」、「橋」「端」「箸」が違うという話がありますよね。
それは、高低で区別をつけていると思いますが、他の言葉にもちゃんと高低が決まっていて、音が上がる位置、下がる位置を間違えると、なんだか下手な発音になってしまいます。
日本語の発音の教科書に載ってる有名な例を出します。
ぜひ声に出して発音してみてください。
おや(親)
どうですか?「お」と「や」はどちらが高いですか?
私は「お」が低くなります。関西弁だと「お」が高いかもしれませんが、ここでは標準のアクセントで考えます。
このことばはどうでしょう。
こ(子)
一文字ですから、音の変化はありませんね。
じゃあ、これはどうですか?
おやこ(親子)
「お」「や」「こ」すべて同じ高さでしょうか。
ほとんどの人は「お」が高くて、「や」「こ」は低いんじゃないでしょうか。
ちなみに関西では「お」「や」が同じ音で、「こ」で高くなりますね。
方言があってもなくても…「親」と言った時と「親子」と言った時では、音の高さが違いませんか?
「お(↓)や(↑)」と「お(↑)や(↓)こ(↓)」
どうして同じ言葉を使っているのに、「お(↓)や(↑)こ(↓)」とは言わないのでしょうか。
追加して思い出してみてください。
おやこどんぶり(親子丼ぶり)
音の高さはどうでしょうか。
「お(↓)や(↑)こ(↑)ど(↑)ん(↓)ぶ(↓)り(↓)」と言いませんか?
日本語の発音は実は上がったり下がったりしていて、この高低のルールを覚えなければ、自然な上手な日本語には聞こえないのです。
もちろん文になるともっと複雑なルールが出てきます。
動詞や形容詞は音を間違えても意味は変わりませんが、決まった発音はあります。それを間違えると、不自然は発音になってしまうのです。
私が生徒の発音を聞いていて、ほとんどの生徒がつまずくのが、長音、拗音、促音、撥音と呼ばれる特殊な音です。
長音は長く伸ばす音で、「おかあさん」の「あ」、「がっこう」の「う」の部分の音などです。カタカナ表記では「-」で書きます。
拗音はいわゆる小さい「ゃゅょ」です。
促音は小さい「っ」で、撥音は「ん」です。
この4つに対して苦手意識を持っている人も多く、実際の発音でも上手に言えない人が多いです。
たとえば、長音が上手に言えなかったら、どんな弊害があるでしょうか。
「おばあさん」と「おばさん」では全く意味が変わりますし、「チーズ」が「チズ」になると、
A「チズ買ってきて」
B「地図?どこの地図?」
A「どこでもいいよ。ピザ用をお願い」
B「?????」
みたいな会話になるかもしれませんね。
拗音が上手に言えないと、「ちゅうしゃじょう」が「つうさぞう」のように聞こえて、もう何を言っているのがわからなくなってしまいます。それに加えて長音が下手だと、「う」も消えてしまって、原型がわからない全く別の単語になってしまいますね。
このように、実は発音の落とし穴がたくさんあって、わたしたちは子どもの頃から何度も訓練してこの音を身に付けていっています。
発音の問題は、母語によっても違います。ここに書いたことはほんの一例で、もっともっとたくさん複雑な問題が絡み合って、上手に発音できないことが多いです。
「英語の発音が悪いから」「声調がわからないから」という理由で外国語の会話に対する苦手意識を持っている人はたくさんいるでしょう。
日本語も同じです。
やっぱり自然な発音で話したいと思っている日本語学習者はたくさんいて、みんな一生懸命努力して発音を覚えています。
最近私は発音指導にとても興味があって、いろいろな論文を読んだり、教科書を読んだりして、自分で新しい教材を作っています。
発音が上手になると、自信がついて、もっと話したいというモチベーションにもつながります。(私もベトナム語上手に話したい…!)
しかし、上手になるためには長い練習期間があって、その途中にはどうしても上手に言えない音があると思います。
日本で日本語を使って生活をしている外国人の方はたくさんいますが、きっと発音が正しくないために、100%言葉が伝わらない経験をたくさんしていると思います。
「この外国人、日本語の発音下手だなぁ」
「何言ってるのかわからないなぁ」
思うのは自由ですが、街のみなさんにはそれで話を聞くのをあきらめないでほしいです。
日本語教師は専門知識を持って、発音指導を行います。
みなさんにそれをしろとは言いません。
ただ、何を言おうとしているのか、耳を傾けること、そして正しい発音を聞かせてあげること、それだけで日本語の発音はどんどんよくなります。
聞いてもらえなくなったら、話したいという気持ちもなくなり、発音に対するやる気もなくなります。
余談ですが、私は外国語は聞く・話すで覚えてきました。
誰かとコミュニケーションをして、通じるから、外国語はおもしろいのです。
教室でできることは、そのお手伝いです。
そう考えると、外国語学習を支えているのは、街のみなさんだと思います。